『ざざん座談会』ー後編

ざざん座能舞台meets絡繰機械’s

さて!こちらは『船弁慶』web企画『ざざん座談会』後編です。引き続きお楽しみください!

前編はこちら

IMG_3485たばる ざざん座のみなさんに聞いてみたいことがあるんですが、皆さんはこうして能に携わられているわけですが、どういう部分が『おもしろい!』『すばらしい!』『かっこいい!』って思われますか?
岩上 私はもう昔からはっきりしている。『言葉』ですね。『詞章』。それを読んで、読むだけでもこれだけ素晴らしいんだから謡ったらもっとすごいんじゃないかということで文学から入りました。だから、謡や仕舞はついでだったんですね。
中西 「声を出して読みたい」みたいな感じですか?
岩上 そうですね。
佐藤 謡は最高の朗読であるって聞いたことありますね。謡はその言葉の意味だけでなく情景も描く。切羽詰まったところはやはり切羽詰まった感じ、長閑なところは長閑な謡になっている。そういうのはすばらしいなと思いますね。私は日本音楽というのに興味が湧き、それが入り口でしたね。能の囃子の笛から入ったんですが、その後大鼓とかやってると小鼓や太鼓もわかってくる。その手組といいますか、うまく手ができているなと。大鼓・小鼓が本当にピタッと合っていて、そこに太鼓が縫うように入り、笛があしらう。それが良く出来てるなと思います。スゴイって思ったのはそこですね。
岩上 音楽から入ったんですね。
小澤 俺は大学で能を始めたけど、3年間は全然面白いと思わなかった。
全員 (笑)
IMG_3478佐藤 じゃあ何で3年も続けたんですか?不思議ですよ。
小澤 一番の理由は部活で飲み食いできること(笑)。面白いなと思ったのはその後ですね。やってるとだんだんわかってくるじゃないですか。大学のときに演劇等も手伝ったりしながらいろんな舞台を見てて、トータル的に一番面白いのが能だと思ったんですね。演劇は表現方法が無限にある。でも能って表現方法が有限なんですよ。だけど有限な中で「わかってくれよ」ていう気持ちから形を崩すと能じゃなくなっちゃうんですね。だから気持ち的には伝えたい、わかってほしい、そしてお客さんの方はわかりたいという、なんだかお客さんと特殊なバランスがあるんですが、そんな中、こちらの方としてはすべてを演じたり所作したりすると崩れちゃう。品のないものになっちゃうんですね。気持ちが入りすぎると崩れるし、でも気持ちが入ってなくては伝わらないし、という窮屈なんだけど、何かが伝わった時はうれしい。
あと、もう一つ。たくさんのことを伝える為に余分な物を削るんですよ。削って削って一番最後に残るのが能の型なんです。実は能も進化していて、昔は髪の毛を洗うような所作があったり、舞台の階段を降りていったりしてたんです。でも余分なことは削り、その中で伝えるべき物だけが型としてずっと伝わってきている。そういうのはやっていて面白いですね。
岩上 身体表現からですね。
中西 でもこうして皆さんの話を聞いているとカラクリの舞台とちょっと共通する部分があって、削き落としていくというか抽象的にしていくというか、カラクリもあんまり説明をしないので、お客さんから「わかりにくい」という話も出るんですね。台詞ももうちょっとゆっくり喋ってほしいとか。一人の人がわーってしゃべっててもなんだかわからないから、今はこういう時間でこの人とこの人はこういう間柄っていうのをもっと説明してほしいって言われたりすると、じゃあどこまでお客さんに合わせるのか?と。ウチらもわかってもらいたいけど、全部が全部説明しちゃうとやっぱりやってる方としては自分の目指しているものとは違う気がして。でもわかってくれる人だけでいいやというわけでもなく、今模索しているっていうのが似てるなと思いますね。

万年橋パークビル4F ゆりの木舞台にて収録

万年橋パークビル4F ゆりの木舞台にて収録

唐津 当時の人は能を聞いてわかったんですかね?昔の言葉で一応言っているわけじゃないですか。
岩上 武士はわかっていたかもしれないですね。
小澤 庶民はわからなかったでしょうね。でも狂言の言葉はわかったかもしれない。
佐藤 でも勉強してわかってたていうのもあるかもしれない。
鈴木 それこそ論語なんかは小学生が意味もわからず勉強したわけじゃないですか。あれ、わかってて言うんじゃなくて、最初はわからずに言ってるだけですよね。
IMG_3654岩上 言葉のリズムを覚えるというぐらいのつもりですね。
佐藤 『読書百遍(ひゃっぺん)意(い)自(おの)ずから通ず』という精神ですね。
鈴木 僕は『上求(じょうぐ)菩提の機を見せ下化衆生(げけしゅじょう)の相を得たり』(※9)なんて今だに意味はほとんどわからず言ってますよ。
全員 (笑)
佐藤 それでいいんです。わかろうとしちゃいけない(笑)
鈴木 僕の高校の国語の先生もそう言ってたよ。
佐藤 ですよね。いいんです。何度も読むとなんとなくわかってくるんですよね。
鈴木 100年前ていうのは能のお話(演目)の内容はもうすべて知っていて「今日はどう攻めてくるかな」というところを楽しみに観てたんですね。歌舞伎もそうだと思う。
佐藤 だから何度も同じ演目を観て「さ、来るぞ!ほら来たー!」って。
鈴木 本来お能っていうのはストーリーが決して難しいわけではない。どう表現するのかが楽しみなところですね。

IMG_3406小澤 たばるさんが質問をしたのを逆にみなさんに質問したいのですが、演劇のおもしろさとか、どういったところにあると思いますか?
たばる (勘違いで能に対して感じたおもしろさを話しだす)
唐津 たばさん、演劇の方だよ。
たばる え?あ、そうだったんですね(笑)。
小澤 あ、いいですよ、両方聞きたいです(笑)。
唐津 では両方で!
たばる はい(笑)。ではまず能から。佐藤さんのおっしゃってたのに近いのかもしれませんが、音に圧倒されました。聞いているだけでは内容まではなかなか理解できないところはあったんですが、でも、その楽器の音と謡さんの迫力ですかね。その重なりを聞いたときに、もう体で「うわー」って思った。かっこよかった。演劇は、私はわりとハチャメチャなものやバカバカしいものが好きなんですが、うーん、タイミングと間ですかね。ボケとツッコミってありますけど、ボケももちろんおもしろいのですが、それに対するツッコミというか、「間」「タイミング」におもしろさがあるかなと。それがハマっているのを観るともうのめり込んでしまいます。だから動きのある芝居にしても静かな芝居にしても、そこは共通している部分かなと思いますね。
 能は本当に初心者で、伝統芸能は好きなんですが観る機会があまりなかったんで、観ててかっこいいなと思っていたんですが、それをいざ中に入ってってのは、そりゃーできないなあと。今、こうして皆さんのお話を聞いて、これだけ歴史や文化を語れるのはすごいことだなあと。自分は演劇をやってもう16〜17年になりますがこんなに語れないなあと。僕は最初に入った劇団はすごいシリアスで重い芝居をやるところだったんです。で、そのあとにカラクリの前身のところでやり始めたんですが、実際自分が何でやってるかというか、演劇の面白さはなんだろう?というと、生の舞台に立ってる、お客さんの反応がダイレクトに返ってくる、もしかしたら能もそうなのかもしれないのですが、そういうところが面白くて。やっぱりウケがいいとノッてきたりとか、ウケが悪いとなんとかしようと思って余計にスベるとか(笑)。
中西 森さんは客席が引くとどんどん前に行くんです。だいたいお客さんがシーンとなったときは役者はたいてい怯むんですが、森さんはそこに果敢に攻めていくんでそれがすごいなと。
 成功した試しはそうないけどね。
伊藤 逆にウケると怯みますよね。
 え?ウケるの?って。
佐藤 ここ、ウケる所じゃないはずなのにって(笑)
IMG_3532 だからこうお客さんと直にふれあえる空間というのはいいのかなと。その感覚を体感できるのがいい。あと、役によって実体験ができないようなことができるというのも。実在の人物をするのは今回で3人目なんですけどそういったことができるっていうのは面白さの一つかなと感じています。
佐藤 すばらしい!
たばる ではお次の方。
伊藤 はい。能は、ちょっとだけ授業で習ったんですが、着物を着た人形みたいなのが面をつけていて、その面の説明をされたのを覚えてるんです。うつむくと悲しそうに見えて上を向くと楽しそうに見えてっていうのしか覚えてないんですが、ちょっと難しそうだなというイメージだったんです。でも、最初に稽古に来させてもらったときに、たしか安彦さんだったと思うのですが『恋重荷(こいのおもに)』という能の演目があると聞いて「え!そんなのあんの!!」って。そのときに、あれ?能ってちょっと思っていたのと違うぞ。おもしろいかもって思いました。あと、『鵺』をさせてもらったときに、僧の役で隅に座ってたんですが、鵺が周りを歩きながら前に来るシーンがあるんですが、そのときの謡がすごい心地よくて「あ、この空間いいわ。」って。なんとなく心地のいい空間として私の中で認識されましたね。
小澤 確かに、型っていうよりわけのわからないところがお気に入りになったりするんですよね。「ここで右に回るのが大好き」とか。
全員 (笑)
伊藤 演劇はコレっていう明確な理由はなくて、小学生のときに観た劇団四季に感動したとか、学生時代の暗い記憶がうんぬんとか、昔コスプレイヤーでしたとか、いろんな要素が積み重なって好きになっていったというか。なんとなく意味はわからないけど心が惹かれるものってあると思うんです。で・・なぜか好きです。
唐津 僕、演劇を先に言うと、未だに演劇やってるという感覚はあんまりなくて。もともと文章書いたり音楽やったり照明の仕事したりと、芝居で使ういろんな要素の物をやっていたということはあるんですが、芝居自体はやってなかったんですね。で、浜松に帰ってきていろんなアマチュア劇団手伝ってるうちにやめるにやめれない状態ですね(笑)。こうして続けているのは、いろんな要素を突っ込める場として、芝居というのは使いやすい。自分のやってきたこともそうですし、まわりで面白いことをやっている人、それこそこうして能をされている方々がいてその要素を持ち込んだりして、そういうなんでもやれちゃうところっていうのがいいのかなと思います。
小澤 ハイパーメディアクリエーターとかどうですか?
全員 (笑)
IMG_3675唐津 いやいや、そういうのは目指してないです(笑)。お能も僕、昔から興味はあって、なんかちょくちょく話には出してたんです。芝居で既成台本をやってみる?みたいな話が出たりする中で、どうせアリものやるんだったら能とかがいいな、とか言ったりしてたんですよね。で、今やってて面白いなと思うのは、僕もともと風景描写が好きなんです。能も風景とか心情を重ねて謡うのが多いじゃないですか、そういうところがおもしろいというか美しい。あと以外にくだらないことをやってるな、みたいなところありますよね。当時の間隔としてはギャグではないんでしょうけど今の感覚だとギャグになるみたいなところが多い。
小澤 そうですね、ツッコミどころは多いですね。
唐津 あと、前のパンフレットにも書いたかもしれませんが、ウチの芝居って音楽をガンガン入れるじゃないですか。で、動きもいっぱいつけているのが多いので、入ってくる音楽がお囃子になって、動きのシーンが舞になるていうところでマッチングしやすいかもしれないですね。
中西 私は、演劇はただ運動部に入るのが嫌だったから演劇部に入ったんですが、最初は照明係でつまんないなーって思ってました。文化祭で初めて役を貰って、やっぱり楽しいって思って以来ずっとやってるんで、役者バカというか本当に役者がやりたくてやっているというのが強いですね。で、私プロの芝居も全然見たことがなくて全然知らなくて、ただただ自分が舞台に立つことが楽しい。だから演劇の魅力は自分にとっては舞台に立つこと。で、能に関しては、って能じゃないんですが、狂言の野村萬斎さんのNHK教育を観てたときに、ほんとすごくて。何をしゃべっているのか、何を表現しているのかもわからないのに、奇妙だったり面白かったり。『鵺』で舞をやりたいって言ったのも、ずうずうしくも舞台に上がってみたいという思いが強くて。で、小澤さんに習って仕舞をやったんですがやはりおもしろかったので、一番好きなのは仕舞ですね。洗練された感じの仕舞を早くできるようになりたいです。
IMG_3672河野 僕は演劇から話すと、浜松での演劇祭でカラクリを観ておもしろなと思ってカラクリに入ったんです。それで芝居を始めるとやはり難しくて。でも舞台に立つのは楽しいなと思うので舞台に立つのが魅力です。で、能に関しては皆さんと関わるようになってから触れるようになったんですが、ちょうどそのときに文芸大で薪能があったので観に行ったんです。その中で、後シテが出てきた時がやはり面白いなと思ったんです。音も派手で動きも速いのになめらか。なんであの形が保てるのかとほんとびっくりしましたね。
小澤 みんなすごいね。俺、面白いと思うのに3年かかったのに(笑)。
全員 (笑)

唐津 お能をやってらっしゃる方って、どちらかというと静か目なものの方がすきなんですか?
佐藤 いや、そうでもないですね。
鈴木 そうだねえ、まあ好みがあるかなあ。でもまあ例えば、お能を演劇としてみるのと自分が演じるのとまた謡うのとではやはり好みも違うかもしれないし。
唐津 あー、なるほど。
鈴木 例えば神ものなんてのはそう観ても楽しいものだとも思わないし(笑)。ストーリーがないようなもんだしねえ。で、特に謡って面白いのは私は四番目ものっていうか。そういうのがやる側としては面白いと思ったりする。

たばる では最期に今回の『船弁慶』の上演に関して何か一言ずつ!ではかぶちゃんから。
河野 能と演劇のコラボをぜひ楽しんで観ていただければと思います。
佐藤 今までのは能を演劇の人に助けてもらうという形でしたが、今回は演劇ベースですよね。ですから期待しています!(笑)
nakanishi中西 いつもと同じになっちゃいますけど、精一杯やって、お能を楽しみにしている人にも現代演劇を楽しみにしている人にも両方の面白さを伝えられるように頑張りたいと思うので楽しみにしていただけたらと思います。
小澤 えー、今回舞えないので……どうでもいいやって(笑)
鈴木 でも打ち上げまでには戻るんでしょ?(笑)
小澤 飲みには参加したいです!打ち上げの為に、おいしいお酒を飲む為に頑張ります。
唐津 『鵺』のときには、最初ということもあって原作からあまり外れないようにしようという意識が強かったんですけど、今回はそれだけだとわかりにくさもあるので、最初からある程度外れるというか別のエピソードや自分の解釈を入れたりしながら創ろうと思っていますね。怒られない範疇で(笑)
岩上 そうですね、僕らにとってはわりと見慣れている『船弁慶』がどう化けるのか。
伊藤 わ、ハードルあげられた!
小澤 きっと、すばらしいものになるでしょうね〜!
全員 (笑)
中西 うわー。
ito伊藤 やめてください〜!そうですね、クリエートという大きな舞台で能とのコラボレーションをするのはきっとたくさんの人に観てもらうことになると思うんで、能のお客さんには演劇の面白さを知ってもらいたいし、私たちのお客さんにも能の面白さを知っていただきたいなと思います。あと、船弁慶をざざん座さんがされたときは佐藤さんが弁慶をやって、今回は弁慶を私がするんですが、義経が森さんなんでね、わたしはどう居ようかというね、解決策として太るかもしれませんがよろしくお願いします。
鈴木 いやー、まだ何も見えてないというのが面白いですね(笑)
全員 (爆笑)
唐津 すみません!近日中に台本を書き上げます!
鈴木 この間、万年橋の7階にある舞台セットを垣間見てきましたけれども面白そうですね。まあ、何もわからないところがお客さんと一緒なんで、お客さんと一緒に楽しみにしています。
 『鵺』や『船弁慶』を観る側だったので、始めてやることに期待と不安があるんですが、その辺をうまーく気持ちをいい方向に持っていってついていきたいと思います。
佐藤 ヤバいと前に出てきます(笑)
たばる わたしは、『鵺』の話があったとき、能と演劇のコラボレーションって一体どういうものか、私自身が想像つかなかったんです。でも本当に面白いものになったんで、現代演劇しか観たことのない人にも能の面白さが伝わってほしいなという思いがあります。で、その逆もあると思うので、主に能しか観てないという方々にも、現代演劇もどうですか?良くないですか??みたいなのが伝わればいいなと思っています。あと、『鵺』のときと違って、今回は能のパートにも携わることが出来るのでそこをもっと習得してというかちゃんと表現できるようにしないといけないなと思っています。今、舞を習い始めているのですが、それが楽しいなと思っているので期間は短いですが気合い入れて、習得していい物をお客さんに楽しんでもらえるようにしたいと思います。
ということで、非常に長丁場になりましたが皆様ありがとうございました。。

<脚注>
※9.『上求菩提下化衆生』…自由を得た上で、自分がつねに向上することをめざしてこそ、人の身になって尽くすことができる。『東北(とうぼく)』という能の演目。禅の中に出てくる大乗仏教の言葉。